イノ・ウエの独り言 
井ノ上が日頃”椅子張り職人”として感じたこと

2001年 10月 15日
”AZUMAのイス張り替え”を考える

HPを立ち上げてから20ヶ月が経ちました。

使い手の顔が見える?見えない?

 HPを立ち上げるまでは、使い手の顔の見えない仕事がほとんどでしたが、HPを立ち上げてからというもの使い手の反応をダイレクトに感じることが出来るようになりました。その反面、使い手の要求にもダイレクトに答えていかなければなりません。しかし、どんな要求にも「できる」、「できない」をその場で返答できるのが、”AZUMAのイス張り職人”としての確かな自信でもあります。なぜなら、椅子に触り、腰掛けただけで中身の材料から状態まで想像することが出来ます。中身を剥がさなくても、張り替えの際にどのようなところまで手を加えていけばよいのか、張り替えの行程の手順を頭でイメージしながら、使い手の方と話を詰めていきます。

使い手の要求

B070 OG邸  使い手には使い手の要望があると思います。それは、一般的に考えられる座り心地の要望だったり、年齢的な要望だったり、個人差レベルの要望だったり様々です。”AZUMAのイス張り替え”では張り替えを単なる着せ替えなどとは考えてはいません。張り替えは立派なオーダーメイドです。座面ウレタンの硬さや高さを変えたり、ボタンやパイピングの有無を決めたり、本体とクッションを別の張り地で張ったり、クッションを取り外せるようにしたりと可能な範囲で自由にオーダーできます。なぜなら、”AZUMAのイス張り職人”の仕事とは木枠の状態からバネやウェービングなどの構造部分やウレタンを形成し、そこから張り地の型を出して、縫製し張り上げる仕事までを一人のイス張り職人が責任を持って手がけていくことですので、可能な限りで様々な要求にも応えられる技能と経験を持ち合わせています。

「張り替えは高い?」人間工学的に考えてみると?

B107 UT邸  「張り替えは高い」と感じる方は非常に多いと思います。しかし、比較対照が購入当時のイスや、現在の市場価格であると考えられます。これは私たち”AZUMAのイス張り職人”の言い分かもしれませんが、「張り替えは実用的なイスを作り上げること」であると考えています。私の大学時代の恩師である人間工学の教授がよく話してくれました。「イスというものは、どのようなイスにも”作業性”と”休息性”という2つの割合からなっていて、その割合にあったつくりと個人(家族)レベルでの要素を組み合わせて考えられたものが最適と言える。」

 

B096 KA邸 B064 IK邸  ・作業性の高いイスは学習机とセットの学習イス
 ・食事を採るという作業イスであるダイニングチェア
 ・話し合いをするといった作業イスである会議用のイス
 ・人をもてなして話をするための休息性と作業性を兼ね備えた応接イス
 ・ゆったりと深々と腰掛ける休息性の高い一般のご家庭にあるソファ
 ・かなり休息性の高いイスは脚をオットマンの上に投げ出して腰掛けるパーソナルチェア

(作業性の高いイスにもリクライニング機能を付けるなどして休息性を高めているイスもあります)

使い手の個人(家族)レベルでの要素

B068 MO邸  この他に個人(家族)レベルでの要素とは、(10年後までの)年齢、体格(身長)、体質(腰痛など)、生活環境(小さなお子さん、ペットなど)などが考えられます。人間工学的数値はあらゆる条件かでの”平均値”であると言われますが、一般のご家庭でのイスのように使い手が限定されている場合、そのご家庭内での平均値、あるいは頻繁に使われる方を優先的に算出した値、なるものを考えていくことが、個人(家族)レベルでの要素となります。

年齢的要素とは?

B086 MI邸  年齢的なことでの例は、腰掛けると包み込んでくれるような新品のソファを購入なさったのが35歳。15年使われて、張り替えをご検討いただいたときが50歳。”AZUMAのイス張り替え”ではこれから10年以上使いやすく使っていただきたいと考えていますので、硬めの座面を作らせていただくために中身ウレタンの交換をお勧めしております。これはまさに年齢的要素で、10年後には使い手は60歳を超えます。どんな方も若いときと比べると足腰が弱まってくることは必至。年齢とともに腰掛ける、立ち上がるの反復動作が困難に思えてくるでしょうし、ソファを購入されたときは手を使わずに足腰の力だけで立ち上がれたことが、だんだん手で膝を押しながら立ち上がったり、肘を利用して立ち上がるために肘の脇に腰掛けるようになってきます。この様なときは年齢を重ねていくと遅かれ早かれ考えられることでしょうから、張り替えの際には、その年代にあった座面の硬さなどの考えがありますので状況に応じてお勧めしています。

体格的要素とは?

B074 SA邸  体格的な要素は、主に輸入イスの場合に要望があるときがあります。張り替えをご検討いただく世代の日本人の体格的な欧米人との差はどうしてもありますので、背もたれのクッションを厚くしたりなどで調節させていただいているケースもございます。また、一般的に家族というと男性と女性との組み合わせですから、通常の場合、それほどリクエストのあるケースは低いです。

体質的要素とは?

B069 TO邸  体質的な要素は、大きく関わってきます。近年腰痛を訴えている方は多く、この腰痛を抱えている方にとっては、苦痛で腰掛けていられない程のイスもあると聞きます。アラ・カワも中学生の時にヘルニア初期と診断されてから腰痛とは長く付き合っていますが、腰痛の方にとっては腰が安定している方が楽なのです。柔らかすぎる座面は体重のかけ方で姿勢が定まらず、腰を不安定な状態にしてしまうケースが多いために腰痛持ちの人には耐え難い苦痛となります。ですから、硬めの座面を用意して欲しいとの要望が多いのでしょうし、アラ・カワもそう勧めさせていただいております。

生活環境的要素とは?

B131 SU邸  生活環境的な要素は、小さなお子さんがいるので汚れがふき取りやすいように合成皮革やビニールレザーを張り地として張り替えたいとおっしゃる方。猫がを飼ってらしてどうしても爪とぎの被害にあってしまうので、被害にあいにくい張り地で張り替えたいとおっしゃる方。うちは日当たりが良くて濃い色だとすぐに色あせしてしまうので色あせが目立ちにくい張り地で張り替えたいとおっしゃる方。生活環境的な要素は張り地を決める大きな要素でもあります。しかし、あくまで張り地を決める要素であって、絶対的でなものはありません。張り地に関して、結局は、使い手のイスに対するイメージや、インテリア全体からのイメージ、好みの色柄が決定的になっていると思います。

大量生産によるイスの構造的な現状

B037 SU社 B038 SU社  ”AZUMAのイス張り替え”の考える「張り替えは実用的なイスを作り上げること」とは、上記の要素から使い手にとってベストな状態で10年以上快適に使っていただけるようなイスを作り上げることです。アラ・カワがそのイスに腰掛させていただいて、中身のウレタンや構造を想像して、張り替えの行程の道筋を頭で折追っておくことは出来ても、実際に補強や修繕部分を明確にするには木枠だけの状態にしたときです。張り替えの場合、ほぼ100%自分の作ったイスでないものを張り替えなければなりません。中には構造的に”AZUMAのイス張り職人”には信じられないほどの荒っぽい作りのイスもあります。ほとんどのイスは”AZUMAのイス張り職人”によって補充以上に補強されることになります。残念なことに、”AZUMAのイス張り職人”にとって当たり前に手間をかけるべき作業が省かれてしまっている場合が多いのが現状です。

一人前のイス張り職人の価値

B106 EG邸 大量生産が悪いということではありません。仕事を細分化することでコストを押さえ、大量生産が可能となり、良い商品を手頃な価格で手に入れることが容易になりました。そして価格はさらに下がり「手ごろな価格」から「安い値段」に変わってきました。「安い値段」では使い手は良いかもしれませんが、作り手にとっては大変な事態です。1人前の職人のいらない時代の到来です。新しいものを作るときは職人の必要性は少なくなっていくかもしれません補修や張り替えなどにおいてはメーカーがしっかりと対処してくれるかどうか分かりません。特に輸入品に関してのメンテナンス等は難しいと考えられます。ここで、1人前のイス張り職人がいれば、木製のイスであればどんなイスでも張り替え等可能です。特に”AZUMAのイス張り職人”にお任せくださればご希望通りの座り心地のイスに仕上がるとお考えください。

”AZUMAのイス張り職人”の喜び

 ”AZUMAのイス張り替え”で「新品以上に....」と唱っているのは、そういった当然の手間をかけてそのイスを構造面から加工することによってイスの質が上がります。もちろん座り心地にも影響しますし、中身ウレタンや張り地も長持ちをします。10年使って張り替えるイスは同じ使い手が使うのであれば、張り替えて10年以上使っていただきたい。そして再度、”AZUMAのイス張り替え”に「また、張り替えたいんだけど、よろしく」と言ってお持ちいただけたらそんな嬉しいことはないですね。

 

長くなりましたが、最後まで目を通していただきましてありがとうございます。

archive
過去記事の一覧
一覧の続きを開く

×閉じる